最近読んだ本⑥
上林暁傑作小説集 孤独先生
著者 上林 暁 選者 山本 善行
この本も誠光社さんで買ってきました。上林さんのことはまったく存じ上げていませんでした。(お恥ずかしい)
著者は、私小説を中心に短編小説を多く残された方だそうです。時代としてはちょうど太宰治氏と同年代の小説家です。
何故買ったのかというと、最初に収められている「天草土産」という作品に惹かれたからです。
冒頭「宇土半島の金桁鉱泉へ行く街道であった。」で始まります。まさしく私の実家があるところで、前にも書きましたが私は中学生の頃、夜中に家から金桁鉱泉まで真っ暗な道を走っていました。
鉱泉とは炭酸泉で、私が通った頃は、大きな井戸の底にわずかに鉱泉が湧き出ており、それを長い柄杓のようなものですくって飲んでいました。
さらに天草に渡る汽船に乗るのが三角。私はそこに住んでいたのです。さらには乗船された汽船会社(九州商船)に祖父も父も勤めていました。
このお話の中で、金桁鉱泉には炭酸泉を利用した大きなサイダー工場があったことが書かれています。1933年の作品ですから、昭和初期には実在していたのでしょう。ビックリです!
そんなこんなで読み始めた本ですが、最初は硬い文章に戸惑ったものの、次々と新しい作品を読み続けるにつれ、引き込まれていきました。
11篇ある中で、最後の3篇「二閑人交友図」「孤独先生」「手風琴は古びた」が心に残りました。
これは、選者の山本善行さんの構成によるものかと思います。初めて上林さんの作品を読みましたが、瑞々しく新鮮に感じました。良い作品は年を重ねても良いものなんですね。