楕円球の思い出!⑩
悲恋❣
今回は、珍しく恋バナです。
大学を卒業して2年、私は一人で塚口に住んでいました。阪急神戸線、梅田から5つ目の駅です。その頃「つかしん」と呼ばれている大規模商業施設ができ活気づいていました。
4畳半と6畳が続く「こやた荘」という文化住宅に住んでいました。6畳間の向こうにある窓は昼間でも暗かったのを憶えています。
そこに、我がラグビーチームの同期だったW君が遊びに来ました。岐阜の大垣工場での研修を兼ねた勤務が終わり、いよいよ大阪本社へ転勤が決まったというのです。それはメデタイし、いつでも会えるようになると私は喜んで彼を迎えたのでした。
W君はキャプテン、ポジションはスタンドオフ、いわゆる司令塔。誰もが憧れるポジションです。試合中にエズくのが彼の癖でした。私は後方でエズく彼の声を聞き、また今日もエズいとるなあと思ったものです。鳥取出身の彼は、無口なほうでしたが男気があり、みんなから信頼され慕われていました。
汚い部屋で飲み始めると、当然話はラグビーになります。一通り話し終わるとマネージャーの話になりました。私たちの一つ下にYちゃんとTちゃん二人のマネージャーがいたのです。
それほど親しくありませんでしたが、二人とも真面目でおとなしく、特にTちゃんのはにかんだ姿が頭に浮かびました。
そこでW君が言ったのです。「実は、何回かTちゃんが遊びに来た」と…。彼女は実家のある岡山に戻ったはずですから、岐阜まで新幹線を使い会いに来たというのです。
ビックリしました。卒業後は頻繁に連絡を取り合っていたわけではなく、私は田舎に帰っていたこともあって卒業後のことは何も知らなかったのです。もちろん、近くにいても話してくれなかったかもしれません。
皆さん、どう思われますか?
岡山から岐阜まで会いに通いますか?
覚悟を決めて来てくれた彼女を彼は毎回駅まで送り、最終の新幹線に乗せて帰していたというのです。
この唐変木!!!と言いたいところですが、何か男って訳のわからない所で律儀なものです!ハイ!
それなら、これから大阪勤務になる。近くなるので今までより会いやすくなる。すぐに電話しよう!ということになったのです。少し酔っていたからかもしれません。
W君は、自分の電話帳を出し、私の家の黒電話のダイヤルを回しました。まずは家の方が出られた様子でした。かわってでてきたTちゃん。W君はいつもの照れた笑顔で話を始めました。すると、すぐに、急に彼の顔がこわばったのです。そばにいた私には何が起こったのかまったく分かりませんでした。
慌てだすW君!顔が少し赤くなりました。なんだか弁明しているようでした。それから、相手ををなだめるような口調に変わりました。事情が分からなくても、ただ事ではないことは十分察することができました。
何と!ナント!電話をかけた日は、彼女の結婚式の前日だったのです。気持ちを伝える精一杯の行動が岐阜に会いに行くことだったのだと思います。なのに彼は何も言ってくれない!彼をあきらめた彼女は、ついに数ヵ月前にお見合いをし、その相手と結婚することにしたのでした。
それからが大変でした。受話器の向こうで泣き出した彼女!明日結婚はしないと言い出したのです!それをなだめて、落ち着かせるまでの時間の長かったこと!計ってはいませんが、一時間以上かかったのではないかと思います。
「事実は小説よりも奇なり」といいますが、本当にこんなことがあるのです。結婚式の前日に恋焦がれた人から電話を受ければ…。事実は本当に酷なものだと思います。W君もまんざらではなかった様子で…。
この話は、同期のメンバーにも誰にも話していません。W君!Tちゃん!あれから30年以上経ちました。もう話してもいいですよね!